LOGIN森の道へと入った。
木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。
森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。
可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて!
古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。
開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。
「グラヴィティライン」
トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。
「がうばうっ!」
走っていたテラーウルフは前のめりにつまずいた。
さて、拘束は何秒持つだろうか?
「ご主人様!」
ウミが戻って来て剣を構えた。敵を斬りつけようとする。
そこでトウマが声を上げた。
「ウミ、ちょっと待て」
「どうしてですか?」
「ぐあるるるぅ!」
テラーウルフがロープから抜けだそうとしてもがいている。青黒いロープが引きちぎられるのは時間の問題と思えた。
グラヴィティラインは連射できない。スキルの再使用にはクールタイムがある。
トウマは左手を顔に当てる。一縷の望みをかけて唱えた。
「フィールドハック」
視界が赤に染まる。
サイは投げられた。
Cut down the nearby trees.
Fall toward the enemy.
Is this fine?
「Sure!」
ウミは焦っているようで眉をひそめる。
「トウマ、私はどうすれば良いんですか?」
「ウミ、そこにある木の根元を切れ」
トウマが左手で指し示す。
杉の木の一本がゆらゆらと揺れていた。今にも折れそうである。フィールドハックの影響で倒れやすくなっているようだ。ウミは怪訝な表情で近づく。
「この木を切るんですか? 幹が太いですぅ」
「いいから切れ」
トウマは言葉を短く切る。
ぶつりと音がして、テラーウルフが青黒いロープをついに引きちぎった。自由になり、体を反転させてこちらに顔を向ける。
「ガアルルウゥゥウ!」
「ご主人様、敵が!」
「ウミ、早くしろ!」
「わ、分かりましたけどっ」
ウミが木のそばに寄る。その根元を剣で叩き始めた。その間にもボスモンスターがトウマに突進する。
トウマはバックステップを踏んで避けようとした。しかし敵の突進の勢いは止まらない。トウマは脇腹に攻撃を受けて小さな悲鳴を上げる
「グッ!」
HPがゴリッと半分ほど食われた。
「がうるあるぅぅっ」
テラーウルフが赤いオーラを帯びる。必殺技を繰り出そうとしていた。トウマの額に冷や汗が伝う。これをくらえばデスペナルティ。
(だけどな)
「切り札は、取っておくものだ!
リダイレクト」
敵の頭上にchangeの文字が浮かんだ。
「トウマ、折れます!」
太い杉の木がミシミシと音を立ててテラーウルフに倒れかかる。テラーウルフはなんと倒れ込んでくる木に向かって必殺技を放った。幹に噛みつこうとする。
けたたましい衝突音。
「ぐるるばあぁぁああああ!」
木に押しつぶされて、敵のHPが一気にゼロになる。その場に崩れ落ちた。うっすらと体が透明になって消える。
可愛いは正義勢:ウミちゃん、助かった!
古参ニキ:トウマさん、考えたな。
――クエストクリア
トウマ
効率D→[時間かかりすぎ]
技術B→[地形最大活用]
意義E
魅せC
【総合評価D】
【+220ヴァル】
称号
『地形利用の初心者』を獲得
ウミ
効率D
技術E→[瀕死]
意義D→[他人救助失敗]
魅せE
【総合評価E】
【+70ヴァル】
レアドロップ
『綺麗な石ころ』を獲得。
やはり評価が低い。
金は雀の涙だ。
これでは生活できない。
だけど死ななくて済んだ。その事にひとまず安堵する。
ウミが近づいて来る。尊敬の眼差しでこちらを眺めた。
「トウマ! どうして木が上手く倒れるって分かったんですか?」
「スキル効果だ。それよりウミ、少し動かないでHPを自然回復させるぞ」
「私、綺麗な石ころを手に入れたみたいですぅ」
ウミがステータス画面を開き、アイテム欄からその石を取り出す。
赤い石だった。ルビーとまではいかないが、キラキラと輝いている。
「その石、何か価値があるのか?」
「美しいですぅ」
「……良かったな」
「綺麗ですぅ、綺麗ですぅ。うふふ」
トウマはため息をつきつつ、自分もステータス画面を出した。現在レベルは1。大物を倒したというのにレベルの上昇は無い。どうすれば上がるのか調べると簡単に判明した。ヴァルである。
――なるほど、クソゲーのようだ。
生活するためには金が必要である。だというのに、レベル、スキル、アビリティアップをするためにもヴァルを消耗する。
やれやれと首を振りつつ、ウミにもそのことを伝える。二人はヴァルを支払い、レベルを上げた。トウマはレベル3、ウミは2になった。
「トウマ、さっきはプレイヤーがいっぱい死にましたね」
「気にするな。どうせリスボーンできる」
「ちょっと可哀想でした」
「ウミ、他人を助けるのはもうやめろ」
「でもトウマは!」
使い魔が両手を腰に組んで前かがみになる。
「私のことを助けてくれました!」
とびきりの笑顔。
トウマは何も返答ができなかった。
「ご主人様は、本当は優しいですぅ」
「馬鹿。お前は俺の使い魔だから、助けただけだ」
「優しいですぅ、優しいですぅ」
ウミが両手を広げてくるくると横回転する。モフモフと揺れる尻尾。エクボを浮かべて心から嬉しそうな表情だ。
トウマは小さく息を吐いた。
(優しさなんて、俺には関係無い)
「おいおい、キャルル丸、太りすぎさ!」 ニキが責めるような口調で相棒の背中を撫でていた。 キャルル丸は弱ったような顔をしてうなだれる。発した声はいつもよりも低い。太りすぎたせいで重低音だった。「ぎゃるるぅ」「ぎゃるるぅじゃないよ、もう!」「ぎゃるぅ」「どうしてあのピンク色の竜のぶんのステーキまで食べたさ?」「ぎゃる、ぎゃるるぅ」「お前、こんな相撲取りみたいな身体つきで、戦えるのかよ?」「ぎゃる!」 キャルル丸は大丈夫だというふうに右手を振る。 ニキは深いため息をついた。(これじゃあ負けちまうさ):キャルル丸は終わりマスタ。:リログしても痩せないですよ。:……早くダイエットしなきゃ。:俺の50万ヴァルを返して。 円形闘技場の入り口前の地面に、グラスオースのメンバーは集まっていた。晴恋だけはいない。晴恋は試合を見張っており、キャルル丸の試合が近くなったら呼びに来てくれる手はずだ。 キャルル丸の初戦は三試合目である。 辺りに一般プレイヤーや乗り物はいない。ファストフードを売るNPCの露店だけがあった。円形闘技場では試合が始まっているようで、お客さんの歓声が響いてきていた。賭け事が熱狂しているようで、罵声まで飛んでいる。それを聞いて、ニキはイライラしたように眉間にしわを寄せた。 キャルル丸のぼよぼよとした腹を、ニキがわしづかみにする。「何だよこの情けない腹は! こんなに太ったら早く動けないさ。この馬鹿ちん!」「ぎゃるるぅ……」「みんながお前に50万ヴァルを賭けているんだぞ?」「ぎゃるぅ」「もうっ! ずんぐりむっくりになっちゃって!」「ぎゃる……」「おいニキさん、その辺にしておけ」 トウマがニキの肩にやんわりと手を置いた。 ニキが振
「きゃるるぅ、きゃるるぅ!」(食ってやる、食ってやるぞ!) 大食い対決だった。 円形闘技場の試合場では、給仕たちが次々とステーキを運んできている。料理の種類はステーキだけのようだ。乗り物たちは競い合っており、ステーキをがぶがぶと食べていた。制限時間は30分。空けた皿の枚数で勝敗は決まる。:頑張れキャルル丸ぅぅ。:いま、11皿を完食です!:キャルル丸がちょっと太ってきたなw これはやばいぞ! 夏の太陽がじりじりと地面を照らしていた。観客たちは大変な盛り上がりであり、乗り物たちに向けて声援が飛んでいる。 キャルル丸は11皿目のステーキを食べ終えると、ぐらりと立ちくらみがした。右に身体が傾いて、慌てて足を踏ん張る。下腹がぽよぽよと膨らんできていた。 げぷっとゲップを一つこぼす。(ふん、まだまだ食えるぞ) 給仕が台車を押して12皿目のステーキを運んで来る。ステーキは脂がぎらぎらとしており、あっさりとした酸味のあるソースがかかっている。キャルル丸はかじりついた。がぶがぶと食べる。噛めば噛むほどに甘い肉汁がじゅわっと染み出る。極上に美味いステーキだったが、食べ過ぎたせいで美味いとはもう感じなかった。それでも勢いよくステーキを平らげる。口から肉汁が垂れて、地面に脂がぼとぼととしたたった。 観客席からはウミの声が一段と高く響く。「キャルル丸ー、いま一位ですよー!」「キャルル丸、もっともっと食べる!」 アイギスも両手を硬く握って応援している。 12皿目を食べ終えて、キャルル丸は口をべろりとなめ回した。「きゃるる!」(そうか、いま一位か!) ならば余裕だと思った。 キャルル丸の給仕が台車を押して、円形闘技場の入り口へと向かった。次のステーキが運ばれて来るまで、しばしの休憩である。 その時だった。 キャルル丸の隣にピンク色の竜がどしどしと歩いてくる。 振り向くと、エリザが弱ったような表情で立っていた。その後ろではエリザの給仕が台車を押してお
――乗り物コロシアムクエスト、入賞する 王都の東のはずれにある円形闘技場に来ていた。 高い段差の上にある観客席は、プレイヤーやNPCのお客さんたちで賑わっている。入り口にはファストフードを売る露店が出ており、観客たちがフライドポテトやチキンなどを頬張っていた。乗り物コロシアム開催委員は他にも料理を作っているようで、いま豪快に肉が焼かれていた。それが何のための料理なのかは、今のところキャルル丸には分からなかった。 キャルル丸の主人たちは観客席の前列の一角を陣取っており、興奮したような様子で紙コップのジュースを飲んでいた。 試合場には乗り物たちが集まっている。にわとり、ウサギ、ブタ、牛、馬、狼、大蛇、様々いる。どれも立派な体格をしている。これから予備選が始まるようだ。キャルル丸は顔をキョロキョロとさせて、エリザの姿を探していた。ふと、左斜め前方にピンク色の竜の姿を認める。エリザだ。思わず頬が熱くなった。(エリザよ。美しきピンク色の竜よ) キャルル丸は独白しつつ、淡いため息をつく。 一目見た時から、彼女のことがたまらなく気に入っていた。試合前に、少し話すことはできないだろうか? お近づきになって、その顔をべろりべろりと舐めてあげたい。:乗り物コロシアムが始まりますねw:今回の予備選の内容はなんだろうな?:キャルル丸ぅぅ、応援してるぜぇぇ! キャルル丸はエリザの方へ歩き出した。だが、黒馬が身体を割り込ませて立ちはだかる。 テレサだ。 キャルル丸はつぶらなグリーンの瞳でテレサを睨みつけた。「きゃるる」(貴様、我に何用だ? そこをどけ)「ぶるるっ」(キャルル丸、また会ったな)「きゃ、きゃるるっ!」(お前のデカい鼻は醜いから、二度と見たく無かったな)「ぶるるぅ」(キャルル丸よ。お前の白い顔を拝む度に、貧血で死にそうに見えるから心配になるぞ)「きゃるるる!」(我の肌の色を愚弄するか! 許さんぞ)「ぶるー」(貧血のキャルル丸よ。今度こそ勝つのは俺だ)「きゃるるぅ
「キャルル丸、手加減は要らないわ。本気で来なさい」 ベルフラウはダガーを両手に構えており、キャルル丸を睨みつけている。「きゃるる、きゃる!」 キャルル丸の瞳が鋭く引き締まる。 午前七時過ぎ。 王都アランクルスの道具屋前の大通りで、ベルフラウとキャルル丸は対峙していた。 乗り物コロシアム前の特訓である。 少し前に、キャルル丸のレベルは30に上がったようだった。乗り物コロシアムで勝てるようにウミが協力をしたのだとか。おかげで超越スキル、エボリューションを習得している。だけど、どこで誰が見ているかも分からないこの場所で、エボリューションを使ってはいけなかった。キャルル丸の切り札である。 道の脇には仲間たちが並んでいて、これから始まる決闘を注視している。 ステータス画面を操作してベルフラウが決闘を申し込んだ。「きゃるっ」 キャルル丸が承認を押す。 ドンと音がした。 ――決闘始め ベルフラウが右手を掲げる。「メイクアップ」 小さな手鏡が生まれて虹色の光りを放った。アジリティが上昇する。「きゃるるるぅ!」 キャルル丸がおたけびを上げて走り出した。その両手両足にはスカーレットクローが装着されている。ベルフラウに向けて真っ直ぐに突進してくる。一見隙だらけだ。:キャルル丸は猪突猛進ですw:こんな隙だらけな攻撃いいの?:行けキャルル丸、そこだ!(あのねぇ、キャルル丸) ベルフラウは呆れたように吐息した。キャルル丸は無防備すぎである。(もっと相手の出方をうかがわないと) ウミが両手を口に当てて応援している。「キャルル丸、頑張るですよー!」「キャルル丸、負けない」 アイギスも力強くつぶやいた。 主人のニキが固唾を飲んで見つめている。 晴恋は両手のひらを握り合わせていた。 キャルル丸がどたどたと近づ
翌日の早朝。 王都アランクルスは人々の活気に満ちていた。そびえ立つ王城を中心として、赤い屋根の家々が円形状に広がっている。地面は綺麗な石畳であり、水路もあった。水路は真っ直ぐに港の方へと注いでいる。馬車や牛車が行き交っていた。プレイヤーたちが石畳に絨毯を広げており、露店を開いている光景もあった。武器や服、バフ料理や回復アイテム、素材アイテムなどを売っているようだ。こんな朝早くからご苦労なことである。以前にトウマが言っていたことをウミは思い出していた。プレイヤーたちには、ゲームのヴァルを円に換金して生計を立てている者も多いらしい。商人は、人が通りかかるたびに「いらっしゃいませ」「便利なアイテムはいかがですか?」などと声を張っている。(綺麗な石ころも売っているのでしょうか?) 露店を覗きたい気持ちが、ウミの心の中でうずうずと高まる。(絶対に後で見に行くです) ウミとアイギス、キャルル丸は喫茶店リヴァにいた。甘いコーヒーを飲みながら、ステータス画面を操作している。キャルル丸は桶に入った甘いミルクを飲んでいた。 配信はしていない。 テーブルの椅子に座りながら、ウミが話しかける。「アイちゃん、わ、わわ、ワールドチャットをやってみるですぅ」「うん」「ワールドチャットって、私、初めてですぅ」「大丈夫」「きゃるるぅ」 昨夜、みんながログアウトした後でウミは四枚の絵を描いた。武器制作のミニゲームである。だけど三枚は大失敗した。デッサンアイディアは乗り物武器しか無いため、出来上がったのはスカーレットクローが一つと錆びた牙が三つである。SランクとEランクだ。スカーレットクローをワールドチャットで売れば、大金を入手できるはずである。 ウミが聞いた。「だけどアイちゃん、いくらにしましょう?」「200万ヴァル以上で売れると思う」「そ、そんなにしますかね?」「うん。もっと上げてもいいかも」「……じゃ、じゃあ、に、220万ヴァルにしましょうか?」「
アパートに帰宅して、部屋で真帆たちはくつろいでいた。 すでに夕食を終えている。お風呂も済ませた。 ピンク色の部屋だった。カーペットもカーテンも、布団カバーまでピンク色である。それは真帆のお気に入りのカラーだった。最近はじっとりとしていて暑い。なので、冷房をつけていた。真帆とユウマはテレビを見ることもせずに、二人の時間を楽しんでいる。いま、ユウマが真帆にマッサージをしてくれていた。足の裏を両手で握り、優しく揉み込む。時々、つぼを強めに押した。痛気持ち良くて、真帆は声を上げる。「いたたたっ」「ここはどうだ?」「ちょっとユウマ、きついわ」「足の裏が凝っているな。だいぶお疲れのようだ」「もうちょっと、手加減しなさい」「こっちはどうだ?」「もう、ダメよユウマ」「足が温かくなってきたな」 ユウマがにんまりと笑顔を浮かべる。 真帆はちょっと開放的な気分で足を揉まれ続けた。この後はいつも通り、二人で愛を育む。だけど今日のユウマはマッサージが長い。この男、最近は揉むのが上手になってきた。毎日マッサージをしてくれているせいだ。 ふと、枕元で真帆のスマホが鳴った。「ごめん、ユウマ、電話だわ」「そうか」 ユウマが真帆の足を離す。 スマホを手に取ると、母親からだった。真帆は緊張でお腹が痛くなる。せっかくの二人きりの時間だったのに、またあの話だろうか? マットレスに腰掛けて電話に出た。スマホを耳に当てる。「もしもし、お母さん?」「真帆か。ごめんね、何度もかけて」「うん、大丈夫」「真帆、朝の話の繰り返しなんだけれどね」「うん」「今日のお昼も、高梨さんの家から電話があって、賠償金の支払いを催促されたんだわ。それでね、お父さん、自分の友達を片っ端から当たって、お金を貸してくれないか頼み込んだんだ」「うん、それで?」「なんとか50万円を貸してくれるって人が現われたけれど、それだけでね。
草原の中心に、黒い渦を巻いてテラーウルフが出現する。残忍な顔つき、漆黒の体毛、巨大な白い牙。その圧倒的な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。 テラーウルフが高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」 ドンと音がして空中に文字が表示された。 ――クエスト、テラーウルフの撃破 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないんだー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」 ウミがすぐに反応した。その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」 トウマは状況を冷静に分析する
ロッジのような一室。木造りの天井と丸太で出来た壁。そこのベッドにユウマは腰掛けていた。 ここがゲームの中らしい。 顔の前にはステータス画面のような半透明の青いボードが浮かんでいる。 システム音声が響いた。 「プレイヤー様。VALORIUMオンラインの世界へようこそ!」 「あ、はい」 「まず、プレイヤー名を決めてください」 「トウマで頼む」 彼の本名は冬野悠馬である。 「トウマ、その名前は使用できます」 「良かった」 「次にゲーム内職業を選んでください」 画面には様々な種類のジョブが並んだ。 そして右上には特別コード入力の文字。そこをタップして、暗記し
ログネストの玄関は広い空間になっている。背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。 しかし、空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太り気味の客がやってきた。太り気味の客は男性店員に頭を下げて大声を出す。 「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」 (……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、ユウマの前には女性店員が立って
それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。 「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」 瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。 「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャ







