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第8話 優しさなんて、関係ない

Author: 雨音休
last update publish date: 2026-04-14 09:31:28

 森の道へと入った。

 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。

 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。

 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて!

 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。

 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。

「グラヴィティライン」

 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。

「がうばうっ!」

 走っていたテラーウルフは前のめりにつまずいた。

 さて、拘束は何秒持つだろうか?

「ご主人様!」

 ウミが戻って来て剣を構えた。敵を斬りつけようとする。

 そこでトウマが声を上げた。

「ウミ、ちょっと待て」

「どうしてですか?」

「ぐあるるるぅ!」

 テラーウルフがロープから抜けだそうとしてもがいている。青黒いロープが引きちぎられるのは時間の問題と思えた。

 グラヴィティラインは連射できない。スキルの再使用にはクールタイムがある。

 トウマは左手を顔に当てる。一縷の望みをかけて唱えた。

「フィールドハック」

 視界が赤に染まる。

 サイは投げられた。

 Cut down the nearby trees.

 Fall toward the enemy.

 Is this fine?

「Sure!」

 ウミは焦っているようで眉をひそめる。

「トウマ、私はどうすれば良いんですか?」

「ウミ、そこにある木の根元を切れ」

 トウマが左手で指し示す。

 杉の木の一本がゆらゆらと揺れていた。今にも折れそうである。フィールドハックの影響で倒れやすくなっているようだ。ウミは怪訝な表情で近づく。

「この木を切るんですか? 幹が太いですぅ」

「いいから切れ」

 トウマは言葉を短く切る。

 ぶつりと音がして、テラーウルフが青黒いロープをついに引きちぎった。自由になり、体を反転させてこちらに顔を向ける。

「ガアルルウゥゥウ!」

「ご主人様、敵が!」

「ウミ、早くしろ!」

「わ、分かりましたけどっ」

 ウミが木のそばに寄る。その根元を剣で叩き始めた。その間にもボスモンスターがトウマに突進する。

 トウマはバックステップを踏んで避けようとした。しかし敵の突進の勢いは止まらない。トウマは脇腹に攻撃を受けて小さな悲鳴を上げる

「グッ!」

 HPがゴリッと半分ほど食われた。

「がうるあるぅぅっ」

 テラーウルフが赤いオーラを帯びる。必殺技を繰り出そうとしていた。トウマの額に冷や汗が伝う。これをくらえばデスペナルティ。

(だけどな)

「切り札は、取っておくものだ!

 リダイレクト」

 敵の頭上にchangeの文字が浮かんだ。

「トウマ、折れます!」

 太い杉の木がミシミシと音を立ててテラーウルフに倒れかかる。テラーウルフはなんと倒れ込んでくる木に向かって必殺技を放った。幹に噛みつこうとする。

 けたたましい衝突音。

「ぐるるばあぁぁああああ!」

 木に押しつぶされて、敵のHPが一気にゼロになる。その場に崩れ落ちた。うっすらと体が透明になって消える。

 可愛いは正義勢:ウミちゃん、助かった!

 古参ニキ:トウマさん、考えたな。

 ――クエストクリア

 トウマ

 効率D→[時間かかりすぎ]

 技術B→[地形最大活用]

 意義E

 魅せC

【総合評価D】

【+220ヴァル】

 称号

『地形利用の初心者』を獲得

 ウミ

 効率D

 技術E→[瀕死]

 意義D→[他人救助失敗]

 魅せE

【総合評価E】

【+70ヴァル】

 レアドロップ

『綺麗な石ころ』を獲得。

 やはり評価が低い。

 金は雀の涙だ。

 これでは生活できない。

 だけど死ななくて済んだ。その事にひとまず安堵する。

 ウミが近づいて来る。尊敬の眼差しでこちらを眺めた。

「トウマ! どうして木が上手く倒れるって分かったんですか?」

「スキル効果だ。それよりウミ、少し動かないでHPを自然回復させるぞ」

「私、綺麗な石ころを手に入れたみたいですぅ」

 ウミがステータス画面を開き、アイテム欄からその石を取り出す。

 赤い石だった。ルビーとまではいかないが、キラキラと輝いている。

「その石、何か価値があるのか?」

「美しいですぅ」

「……良かったな」

「綺麗ですぅ、綺麗ですぅ。うふふ」

 トウマはため息をつきつつ、自分もステータス画面を出した。現在レベルは1。大物を倒したというのにレベルの上昇は無い。どうすれば上がるのか調べると簡単に判明した。ヴァルである。

 ――なるほど、クソゲーのようだ。

 生活するためには金が必要である。だというのに、レベル、スキル、アビリティアップをするためにもヴァルを消耗する。

 やれやれと首を振りつつ、ウミにもそのことを伝える。二人はヴァルを支払い、レベルを上げた。トウマはレベル3、ウミは2になった。

「トウマ、さっきはプレイヤーがいっぱい死にましたね」

「気にするな。どうせリスボーンできる」

「ちょっと可哀想でした」

「ウミ、他人を助けるのはもうやめろ」

「でもトウマは!」

 使い魔が両手を腰に組んで前かがみになる。

「私のことを助けてくれました!」

 とびきりの笑顔。

 トウマは何も返答ができなかった。

「ご主人様は、本当は優しいですぅ」

「馬鹿。お前は俺の使い魔だから、助けただけだ」

「優しいですぅ、優しいですぅ」

 ウミが両手を広げてくるくると横回転する。モフモフと揺れる尻尾。エクボを浮かべて心から嬉しそうな表情だ。

 トウマは小さく息を吐いた。

(優しさなんて、俺には関係無い)

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